東京都のセミ
林 正美

ヒグラシ♂20190806(高井戸西)
東京都はコンクリートジャングルである市街地、自然度の高い高尾山などの山林や伊豆諸島、小笠原諸島を含む島しょ部のように、様々な気候帯・環境からなり、それぞれの環境に2025年現在、偶産的な種を除き14種のセミが生息している。
現在でも様々な環境に生息する東京都のセミだが、過去から見ると変化がみられる。生息地であるアカマツ林の減少に伴いハルゼミは区部で絶滅し、小笠原諸島の父島や母島では侵略的外来種のグリーンアノールにより固有種のオガサワラゼミが数を減らしている。近県では竹林に生息するタケオオツクツクという中国からの外来種が確認されており、都内でも今後見つかる可能性がある。また、もともと南方系の種であるクマゼミは公園などの緑地化のための樹木植栽などにより分布を広げているようだ。気候温暖化も一つの要因と考えられる。
変化を知るためには東京いきもの調査団のような市民科学は大きな力となり、継続的に寄せられた貴重な投稿により、学術的にも価値ある新知見が得られることもある。セミといえば夏の風物詩でもあり,その鳴き声などから身近な昆虫の一つである。野外に出てセミを聞いて,観て,記録してみよう。

林 正美 (日本セミの会代表幹事)
神奈川県生まれ。九州大学大学院農学研究科博士課程修了(農学博士)。元埼玉大学教育学部教授、現在、埼玉大学名誉教授・琉球大学博物館協力研究員。日本昆虫学会、日本昆虫分類学会(評議員)、日本半翅類学会、International Auchenorrhyncha Society(常任委員)、日本セミの会(代表幹事)、埼玉昆虫談話会(顧問)等に所属。専門は昆虫系統分類学(半翅目)。主な著書は「日本産セミ科図鑑」(誠文堂新光社)、「日本産水生昆虫」(東海大学)、「日本産土壌動物」(東海大学)、「日本昆虫目録第4巻」(日本昆虫学会)、「琉球列島産昆虫目録」(沖縄生物学会)など。